会社の中で新しい仕事を始めるとき、何を借りて何を変えるか
既存の会社の資源を使っても、新しい取り組みには別の判断が必要です。小さく試す範囲と、続ける条件を整理します。
「社内ベンチャーとは」と調べるとき、会社の中で新しい仕事を始めたいが、どこまで既存の仕組みを使ってよいのか迷う場面を想像するかもしれません。例えば、ある部署が普段の取引先から聞く小さな要望をもとに、これまで扱っていない案内の仕組みを試したいとします。ここでいう社内ベンチャーとは、既存の会社の中で新しい取り組みを形にしようとする仕事の進め方として考えます。
人や設備、顧客との接点を借りられることは、最初から有利に見えます。ただし、使える資源があることと、その使い方が認められていることは同じではありません。通常業務の成果を守りながら、まだ確かでない仮説を扱うには、何を借り、何をこれまでと変え、どの時点で元へ戻すのかを具体的に決める必要があります。
借りられる資源を確かめる
社内で始める取り組みは、ゼロから場所を探す必要がない点に強みがあります。詳しい人に意見を求められる、空いている設備を使える、既存の窓口を通じて反応を受け取れる、といった資源です。しかし、それぞれには本来の目的と優先される仕事があります。空いて見える時間が実は月末の対応に備えた余白かもしれず、顧客との接点も通常の案内以外に使うには確認が要るかもしれません。資源の名前だけで利用可能と決めないことが出発点になります。
確かめたいのは、借りる対象、借りる量、戻す時点の三つです。人については、誰が週のどの時間に何をするのか。設備なら、通常の利用を妨げたときに誰が止めるのか。顧客との接点なら、誰にどんな案内を出し、返答を誰が受け取るのかを見ます。許可を得たという一言だけでは、現場で起きる競合を扱えません。既存業務への影響を観察できる単位まで、借り方を小さくします。
例えば、新しい案内を一部の問い合わせにだけ添えるなら、担当者が一日中新しい作業へ移る必要はありません。添える対象を一種類の問い合わせに限り、返答が増えたときは通常の窓口へ戻す、と決められます。このとき大切なのは、反応を得るために既存の信頼を無制限に使わないことです。借りた資源の持ち主が、通常業務で何を失わずに済んだかも、試行の結果として見ます。
通常業務との違いを共有する
通常業務では、期限、品質、担当の順序がすでに共有されていることがあります。新しい取り組みでは、そもそも相手が必要とするか、続けるほどの意味があるかがまだ分かりません。この違いを共有しないまま、通常業務と同じ速さや完成度を求めると、試す側は失敗を隠したくなり、周囲は何のために時間を使うのか見失います。不確実であることは準備不足の言い換えではなく、確認したい問いが残っている状態です。
衝突は、評価の物差しが混ざるところで起こります。通常業務では、予定どおりに処理できたか、相手を待たせなかったかが重要になる場合があります。一方、初めての試行では、予定どおりに終えたことよりも、どの場面で相手が使い方に迷ったか、誰が判断を待ったかをつかむほうが次に役立つことがあります。両方を同時に最大化しようとせず、今回守る通常業務の基準と、試行で知りたい一点を並べます。
仮に、担当者が新しい案内文を作る場合、普段の案内と同じ承認の段数を毎回通すと、試す回数が少なくなることがあります。反対に、誰も確認しないまま送れば、通常の窓口が受け止めてきた内容とのずれを見つけにくくなります。変更するのが冒頭の一文だけで、ほかに変更がない場合は、その一文と前後の文のつながりを既存の担当が確認する形にできます。既存の確認手順で必須とされている項目は省きません。変更してよい範囲と、これまでの約束として変えない範囲が見えると、速さと慎重さの対立を小さくできます。
試す期間と判断の条件を決める
小規模な実験は、少ない件数で始めることだけを意味しません。始める日、確かめる出来事、終える扱いがそろって初めて、途中で都合よく解釈しにくくなります。例えば、五件の問い合わせに新しい案内を添え、返答を受け取るまでを一回の試行とします。見るのは申込みの数だけではなく、案内後に説明を求める連絡が増えたか、担当者が通常の返答時刻を守れたか、次の案内を自力で用意できたかといった、目の前で確認できる出来事です。
続ける条件は、好評か不評かという印象で置かないほうが扱いやすいでしょう。今回の案内で相手が次に何をすればよいか尋ね直さずに済んだか、既存担当が内容を見ても約束と矛盾しないと言えるか、作業した人が次回に迷った箇所を説明できるかを確かめます。三つのうち一つでも崩れたときは、規模を広げる前に案内、受け渡し、確認役のどこを直すかを選べます。これは成功を証明する条件ではなく、広げない理由を早く見つける条件です。
終了条件も、失敗の宣言として扱う必要はありません。仮に、決めた件数を終えても問い合わせの入口が混乱し、通常業務の返答が遅れるなら、新しい案内を止めて元の窓口へ戻します。反応が少ないことだけで終えるのではなく、何が分からなかったかを残して終えれば、次に別の形で扱う余地は残ります。反対に、担当が増えただけで確認する問いが消えたなら、続いているように見えても試行の目的は薄れています。期間の終わりに、借りた資源を返せたかまで確認します。
この考え方は、既存業務の窓口や担当を保ちながら、限られた対象で新しい案内や手順を試せる場面に当てはまります。一方で、通常業務への影響を止める人がいない場合、扱う情報や手順を変えられない場合、試行中の不具合を受け止める場所がない場合には、小さく始めても安全な試行とは言えません。そのときは、新しい仕事を急いで走らせるより、試行を受け止める役目が置けるかを先に確かめる必要があります。
最初の試行を終えるときは、成果の印象を語る前に、既存の窓口の人がその一件を見て「次に誰が何をするか」を尋ねずにたどれるかを確かめてみてください。たどれないなら、直す対象は企画の魅力ではなく、案内の入口か受け渡しの地点です。借りた資源を使った新しい仕事が根づくかは、特別な担当だけが回せたかではなく、通常の流れへ戻した後にも次の一手が見えるかで判断できます。