仕事に、自分らしさをどこまで求めるか

仕事でやりたいことを実現したい気持ちと、生活を支える役割は両立するでしょうか。仕事に求めるものを分け、期待を一か所に集めすぎない考え方を整理します。

「自己実現とは、仕事で自分のやりたいことを形にすることなのだろうか」と考えるとき、答えを急ぐほど今の仕事が足りなく見えることがあります。例えば、生活を支えるために選んだ仕事を続けながら、担当の中に興味を持てる部分が少ないことに引っかかる場面です。ここでは自己実現を、仕事と自分の関心がどの程度つながるかを見直す問いとして扱います。ただし、期待を一つの職場と役割ですべて満たさなくてよいでしょう。

仕事に求めるものを書き分ける

仕事への期待が重くなるのは、収入、興味、貢献、承認が一つの「やりがい」という言葉に収まっているときです。それぞれを別々に見ます。同じ作業でも、納期どおりに渡せたことで収入の役割は果たしていても、内容そのものには興味を持てないことがあります。反対に、面白く調べられた作業でも、誰にどう使われたかが見えず、貢献の実感は残らないことがあります。

判断の手がかりは、仕事が終わった直後の「足りなさ」を具体的に言えるかどうかです。「楽しくなかった」とだけ感じたとき、作業内容が単調だったのか、工夫する余地がなかったのか、反応が届かなかったのかで、次に扱う場所が違います。例えば、資料を仕上げたあとに最も気になるのが評価なら承認の不足かもしれません。生活費への不安が先に立つなら、興味の問題として片づけないほうがよいでしょう。四つのうち一つが弱いことを、仕事全体の失敗と決めずに済みます。

一週間の作業から印象に残った二件を選び、各作業で得られたものと欠けたものを、四つの欄に短く置いてみます。点数をつけて優劣を決めるためではなく、毎回同じ欄が空くかを見るためです。興味の欄だけが続けて空くなら、仕事の外に置ける関心を探す理由になります。貢献の欄だけが空くなら、役割そのものを変える前に、渡した後の使われ方を見られる機会があるかを確かめる余地があります。

仕事の外でも実現できること

関心のすべてを仕事に回収しようとすると、職場で得られない時間まで無意味に見えやすくなります。しかし、仕事の外でしか育ちにくい関心もあります。だからといって、仕事を単なる我慢の時間にする必要はありません。生活を支えることや、約束した仕事を終えることには、それ自体の意義がありえます。外の時間は、仕事に背負わせる期待を減らす場所になります。

例えば、情報を整理して人に伝えることが好きなのに、今の担当では決まった入力が中心だとします。その関心を、すぐ職種の結論へつなげる必要はありません。読み終えた本の要点を自分用に一枚にまとめる、学んだことを身近な相手へ短く説明する、といった小さな場でも、その行為自体はできます。大切なのは、見栄えの成果を作ることではなく、自分が繰り返したい行為を確かめることです。

外での試みが合っているかは、上達したかや他人に見せられるかだけでは測れません。終えた後に次の題材が自然に浮かぶか、途中で中断してもまた戻りたいと思えるか、準備の負担が内容への関心を上回っていないかを観察します。仮に、一度で満足して次へ移りたいなら、その関心は仕事に取り込むより、時々触れる楽しみとして置くほうが合うかもしれません。反対に、限られた時間でも何度も同じ行為へ戻るなら、今後の仕事で近い要素を増やせるかを考える材料になります。

今の条件で一つだけ近づける

関心が見えたあとも、仕事を大きく変えることだけが答えではありません。今の担当の中で、関心に近い行為を一つだけ増やせる場合があります。例えば、問い合わせに答える仕事なら、答えを急ぐ前に相手が次に迷いそうな点を一つ確認する。定例の報告を作る仕事なら、数字を並べるだけで終えず、読み手が確認したい順番を一行の見出しで示す。どちらも担当を勝手に広げるのではなく、すでに渡す成果物の中で、説明する・整える・確かめるといった行為の置き方を変える試みです。

小さな調整を選ぶ際は、期限と責任の範囲を崩さずに繰り返せるかで見ます。一度だけ時間をかける工夫ではなく、次回も試せる大きさにします。また、その調整によって相手の確認が増えすぎていないか、必要な手順を飛ばしていないかも確認します。役割の定義や決められた手順に触れる場合は、自分だけで変えず、必要な確認を先に取るほうがよいでしょう。任された範囲で何を丁寧に扱うかにも、自分らしさは表れます。

次の繰り返し業務では、渡す相手が迷いそうな一点を予想し、その答えを成果物に一文だけ添えてみてください。作業後には、その一文が実際に使われたか、追加の説明が減ったか、予定した時間内に終えられたかを見ます。手応えがなければ別の問いに替えるか、元に戻せばよいのです。この試行は、今の仕事を理想の場に変える約束ではありません。それでも、自分が大切にしたい行為を、仕事の中で無理なく続けられる位置に置けるかを確かめる機会になります。

仕事に自己実現を求める考え方は、収入や責任を保ちながら、担当の中に関心に近い行為を少し置ける場合には役立つかもしれません。一方で、生活の安定が揺らいでいるとき、負担や安全への不安が大きいとき、決められた手順を動かせないときまで、仕事への期待を増やす必要はありません。仕事の外に残したい関心があるなら、それも自分らしさの置き場所になります。

まず次の定例的な作業で、相手が次に迷いそうな一点を先回りして一文添え、その一文が役に立ったかを確かめてみてください。自分の関心が「人に伝わる形へ整えること」にあるのか、「内容を深く扱うこと」にあるのか、それとも別の行為にあるのかは、実際に小さく置いてみたときの手応えから見えます。仕事にすべてを求めるかどうかではなく、どの行為をどこで続けたいかを選べるようになります。

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